『世にも怪奇な物語』(1967) - Histoires extraordinaires -
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エドガー・アラン・ポー原作の短編映画3本を一つにまとめたオムニバス作品。製作国はフランス、イタリア。
ゴシックな恐怖小説が得意のポーの原作を、映画界の巨匠が独自のセンスで映像化しており、出演俳優も超豪華。
まずは各作品のあらすじと詳細を。第1話 黒馬の哭く館 -Metzengerstein-
監督:ロジェ・ヴァディム
原作:「メッツェンガーシュタイン」(Metzengerstein, 1832年)
出演:ジェーン・フォンダ(フレデリック)
ピーター・フォンダ(ウィルヘルム)
■あらすじ:
莫大な財を持つメッツェンガーシュタイン伯爵夫人フレデリックは、横暴で気まぐれな若き女主人。日夜思いのままに過ごす彼女だったが、たまたま出会った遠縁のウィルヘルムに惹かれ誘惑するも拒絶される。怒った彼女は下男に命じ、ウィルヘルムの馬小屋を放火させる。ちょっとした復讐のつもりが、愛馬を助けに入ったウィルヘルムが焼死してしまう。
その後、火から逃れてきたのかフレデリックの城に現れた美しい黒馬。フレデリックはこの黒馬に魅了されてしまう-欲しい物は全て手に入れ、誰にも命令されず、やりたい事をやりたいようにして生きてきた貴婦人フレデリック。その彼女が生まれて初めて拒絶されるが、戸惑うのもつかの間、自分を愚弄した者に復讐を企てる。その矛先はウィルヘルムが可愛がっている愛馬に向かい、馬小屋に火をかける。
ウィルヘルムが愛馬と共に焼死したと聞くフレデリックの表情は硬く、その心情はうかがい知れない。そこにどこからともなく現れた荒ぶる気高き一頭の黒馬。荒馬に魅了されたフレデリックは片時も馬と離れず、寝食を共にする。
この気高い馬は彼女自身なのか、それとも死なせてしまったウィルヘルムの亡霊なのか。
荒涼としたイギリスの大自然と古い城、そして炎の中で黒馬とフレデリックは一つになった。
■主な作品

・月夜の宝石 Les Bijoutiers du clair de lune (1958)
・血とバラ Blood and Roses (1960)
・悪徳の栄え Les Sept péchés capitaux (1962)
・獲物の分け前 La curée (1966)
・バーバレラ Barbarella, Queen of the Galaxy (1967)
・課外教授 (1971)
・華麗な関係 (1977)
・さよなら夏のリセ (1983)

監督:ルイ・マル
原作:「ウィリアム・ウィルソン」(William Wilson, 1839年)
出演:アラン・ドロン(ウィルソン)
ブリジット・バルドー(ジュセピーナ)

■あらすじ:
高慢で狡猾、非道なウィリアム・ウィルソン。彼は幼い頃より、人を人とは思わない冷たい人間だった。しかしある日、彼の前に同名で自分とうり二つの少年が現れる。そして事あるごとに彼の非道な振る舞いを邪魔するようになった。それは大人になってからも変わらず、大学で罪もない女性にメスを入れようとする際にも止めに現れた。
その後、士官となったウィルソン。賭博場で美しい女性をカードで負かし、掛け金を払えない彼女の背中を鞭で打つ。もっと非道な行いをしようとした時、もう1人のウィルソンが現れ、彼のイカサマを暴露した-

そんな彼の辞書には「善」という言葉は一欠片も無いが、突然現れた同名でうり二つのウィルソンは、神が彼に使わした「善」だろうか。
その「善」を亡き者にした後、パリの石造りの街を走り、ウィルソンが助けを求めた先が教会であるのが、なんとも自己中心的な彼らしい。救いのない結末は当然だと言える。
本作での美しいブリジット・バルドーは30代。ちなみに第1話「黒馬の哭く館」監督の作品一覧にある画像のブリジット・バルドーは『素直な悪女(1956)』からで、まだ10代。
自己資金で製作した1957年の『死刑台のエレベーター』で25歳にして監督デビューした。


監督:フェデリコ・フェリーニ
原作:「悪魔に首を賭けるな」(Never Bet the Devil Your Head, 1841年)
出演:テレンス・スタンプ(トビー・ダミット)

■あらすじ:
酒に溺れ今は落ち目のイギリス俳優トビー・ダミット。そんな彼に久しぶりに映画出演の話が舞い込んだ。内容は西部劇にカトリックを掛け合わせた冒涜とも言えるものだったが、報酬のフェラーリに釣られローマまでやって来た彼。場違いなテレビ番組のインタビューに授賞式が続き、不安で酒が離せない。授賞式のスピーチ途中で逃げ出した彼は、報酬のフェラーリで街を疾走し、事故を起こしてしまう-

ローマに降り立った彼が案内されて目撃するもの、街や通り、建物、歩く人々、全てが混沌としていて落ち着きがない。不協和音の連続で、アルコール中毒の不安神経症的な彼の頭の中が具現化している。
テレビスタジオの人形のようなスタッフや出演者達、授賞式会場の派手で突飛な参加者達。彼にとって全ては虚構であり見せかけだけの中身のないものだ。
彼にとっての真実はフェラーリとそのスピード感。風を受け、ライトに浮かぶ壁を急ハンドルで避ける時にのみ、生を感じる。街のあちこちに立つ人は、もはや等身大の人形でしかない。遊園地にある人形館のような街を彼は疾走する。
そして、神を信じない彼にとってのもう一つの真実。
幼い少女の姿をした悪魔-。フェラーリに乗り、その少女の元に跳躍することは必然であった。

この悪魔の少女。(←怖いから小さくしとこ。)
この白い服を着た少女って昔見た「ウルトラQ」にも出てきたような気がするけれど...。

背景、出演者、色、形、量。その全ての組み合わせで、人の心情を表現する手法は素晴らしいと言える。本作では特に最初の混沌としたローマの街の様子と、受賞会場でのSFかと錯覚させるような表現が秀逸だった。
■主な作品
・青春群像 - I Vitelloni(1953)
・道 - La Strada(1954)
・カビリアの夜 - Le Notti di Cabiria(1957)
・甘い生活 - La Dolce Vita(1959)
・8 1/2 - Otto e mezzo(1963)
・サテリコン - Fellini-Satyricon(1969)
・フェリーニの道化師 - I Clown(1970)
・フェリーニのローマ - Roma(1972)
・カサノバ - Il Casanova di Federico Fellini(1976)
・女の都 - La Citta delle donne(1980)
・ジンジャーとフレッド - Ginger e Fred(1985)
・ボイス・オブ・ムーン - La Voce della luna(1990)
以上は、どれも自己中心的な主人公が不幸な末路をたどる、一種のおとぎ話のような作品だ。
これはエドガー・アラン・ポーが得意とする分野でもある。
エドガー・アラン・ポー
ポーはすごい勢いで執筆しており、上の作品は、ほんの一部。
「死」に取り付かれた作家エドガー・アラン・ポー。興味のある方はぜひ一度、作品を手にお取り下さい。
ではまた


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